小幡敏の日記

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白痴しかおらんな

妻の実家から娘たちが帰ったので「昆虫物語 みつばちハッチ〜勇気のメロディ〜」という2010年公開のアニメを一緒に観てやった。

 

ひどい、あまりにもひどい。

 

私はオリジナルのみなしごハッチは幼少期に見ていてとても好きだったが、これはその面影すらない。

 

オリジナル版はとにかく救いのない話が続く。みなしごになったハッチが序盤で出会うリックという男の子とともに悪者のタガメを倒すが、それは実はリックの父親であり、リックはこのまま成長してハッチたちを襲うタガメとなることを危惧し、ハッチのもとから去る。

 

そんな話が延々続く。

 

一方でこの焼き直し版は少しも暗い面はなく、オリジナルでは自分がミツバチで有ることすらしらず、それを知って凶暴なミツバチは育て親とすらともに暮らせないと悟って去るところから始まるのに対し、新版ではじいやに育てられ、和気藹々と話が始まる。

 

こんなものだからその後も知れたもので、とにかく演出が現代的で安い。オリジナルにあった不条理な暴力は去勢され、そもそも虫のデザイン(ハッチからしてなんの愛嬌もない馬鹿面をしているが、他の虫もデフォルメが下手で元の虫の特徴を殺しているし、女のキャラクターがもっていたいやらしくない色気などもすべてなくなっている)からキャラクター設定(なんで大人の芋虫がいたり、幼児の蝶がいるんだよ。おまけに蟷螂がなんで子供を育ててるんだ)まで、何から何までお粗末である。

 

オリジナルでは悪者の虫は(人間も含めて)まったく違う共同体の倫理に生きており(永井均がネコをダシに書いていたように)、とても話の通じる相手でないことがよくわかるが、新版では宿敵のスズメバチさえ話が通じる。最後はみんな分かり合ってなかよく協力しはじめるところなど、まったく反吐がでる。平和憲法の押し売りを見た気分だ。馬鹿馬鹿しい。

 

そもそも、筋が崩壊していて、なぜハッチの母が生かされているのかもわからなければ、他の虫が最後に加勢にくるのもわからない。主人公の女の子も魅力がないだけでなく、言動が意味不明だ。むしろ原作は人間を極力描かなかったからよかった。手塚の動物ものに見られるように、動物から見た世界が人間となれ合わないからこそ、動物たちが人間のように振る舞っていても空想的にならない。彼らの世界を垣間見ているだけなのだから。

 

いや、野暮なのは承知でいうが、こと子供向けアニメに関しても似非ヒューマニズムが覆っていて胸糞悪い。レビューを冷やかしたら、「暴力表現などが控えられていて、命の大切さが伝わる作品」などと白痴が能書たれていたが、暴力があり、理不尽な犠牲があるから命の重みがわかるんだろうが。最後はさすがに反省してハッチのお母さんにだけは死んでもらうのかと思いきや、あいや、やめてくれ、よせ、嘘だろと思っているうちに、涙がかかってめでたく復活しちまった。こんな安い話があるか。

 

三原じゅんこ先生はこれを見て号泣したそうだが、なんだ、ばあさん、うちの娘でさえオリジナルは夢中でみるのにこっちは途中で呆れてお絵かきしはじめたんだぜ、この国じゃ三歳児より幼稚なもんが政治家先生やっとるのか。

 

口直しに仁義なき戦いをみたら、そりゃもう、気分爽快。こんなん、わしがあのばばあとったりますって、そんな風に言ってみたいものですな。