小幡敏の日記

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一人だけ知ってる悪人

そういえば、私は一人だけ悪人を知っています。

 

殴ってやりたいやつは沢山いますが、本当にやりそうになったのはそいつだけです。(やったやつはいますが)

 

そいつというのは、自衛隊で辞表を出した際の上官である中隊長N3佐(分屯地司令を兼ねていたので佐官級)です。

 

やつは私が辞表を出した際、このことは部下隊員には口外するなと命じました。これから訓練最盛期を迎える中で、辞める小隊長がいたんでは士気が下がると。

 

私は訓練がすべて終了してから辞めるつもりでしたので、その間伏せておけというわけです。

 

やつは隊員を一切信用しない、いや、自らの卑しさを全ての人間に敷衍して考える男でしたから、それも当然なんでしょう。

 

私はこういうことは直接自分の口から説明したいと言った。ですがやつは一切聞く耳をもたなかった。そいつは定年退職間際でしたから、とにかく波風たてずにやり過ごすことしか考えていないのが丸わかりでした。しかしながら、私は隊員と信頼関係がありましたから、そういうことを隠す方がかえって悪いことくらいはわかる。

 

とはいえ、命令は命令ですから、辞表を出す前に既に話していた隊員及び、話しておかなければ迷惑になるような一部の隊員以外には伏せておきました。

 

ところがどうでしょう、ひと月ほどたつと、どうも様子がおかしい。隊員のいくらかが私を見る目が違うわけです。なにかがおかしい。

 

尋ねてみると、やはり私が辞めることを知っているわけです。そして、なぜ話してくれないんだ、なぜ隠すんだ、信用してくれないのか、そんな関係だったのか、となじる者もありました。

 

なぜ皆が知っているのか。私は念の為直接伝えた隊員に誰かに話したのか尋ねましたが、皆、自分を信用して話してくれたことを人に言う訳がないと言います。それは彼らの性格や、目を見ればわかった。

 

色々聞いてみると、出所がわかった。あの中隊長だったのです。飲み会で気分がよくなったやつは、ことあるごとに『ここだけの話だが、あいつ辞めるんだよ』と、打ち明け話を装って言いふらしていたのです。

 

それを知って私は当然あたまにきた。俺は信用してくれる隊員に半ば裏切って箝口令を布かれているのに、その箝口令を出した本人がそれを破っている。

 

中隊長室に行った私は、私が辞めることを皆が知っている、それも中隊長から聞いたと言うが、本当か、と尋ねました。

 

それでやつがなんといったか。

 

『だからどうした』

 

こいつは本当のクズだ。

こんなクズは見たことがない。あんなにいいやつばかりの中隊にあって、中隊長だけがクズだった。

 

自衛隊に居た五年間でクズはたくさん見たが(ほとんどが将校)、あれほど頭にきたクズは他にない。