戦記は何から読めばいいですか、との質問をよく受けるので、少しだけ案内したいと思います。
もっとも、私もあらゆる戦記を渉猟したという訳ではないのですが、現在も販売されており、入手が容易なものとしては、丸山豊氏の『月白の道』がお勧めです。
これは医師として召集された丸山氏がかのインパール作戦に従軍したものですが、聖将とも言える水上少将はじめ、悲惨な戦場の中に生きた偉大な軍人たちの姿が、詩人でもある筆者の魅力的な文体で描かれます。
善良な国民の鑑とも思える著者は、私にとっても目指すべき存在ですが、そこに描かれる日本の将兵の群像は、どこまでも尊く涙を誘うものであり、我々戦後日本人の一面的な戦争観、軍隊観を揺さぶるものとなっています。これは読んで絶対に間違いのない戦記だと思います。
また、『月白の道』を知ったのは、野呂邦暢 の『失われた兵士たち』ですが、これは戦記ではないものの、忘れ去られた戦記を発掘紹介するものであり、戦後日本人の戦記を通した歴史理解として極めて優れたものと思います。入手も容易です。
数多くの戦記が紹介されており、この本を手引きに戦記を探していってもよいでしょう。私自身、この本の御陰で沢山の優れた戦記に出会うことができました。
あとは、少々変わり種ですが、張本勲の師でもある元阪神タイガース松木謙治郎氏による『松木一等兵の沖縄捕虜記』も新品で手に入るものとしてお勧めできるものです。
とかく悲惨な面が強調される沖縄戰を戦い捕虜となった著者の経験が、呆れるほど明るい筆致で描かれますが、それは軽薄というよりもむしろ、運命に対する向き合い方が反映されたものと考えます。沖縄戦に関する戦記は他にも読みましたが、松木氏の戦記は一下級兵士の心理が極めて平易かつ明快に書かれたものであり、良質な戦記のひとつと言えるでしょう。これもすぐに入手できるものですので、興味があれば手に取ってもらいたい戦記です。