沖縄で小隊長をやっていた時の部下の訃報が届きました。
死因は自死です。
彼は本当に酒が好きな男で、いつだって酒を飲んでいた。
それが祟って離婚し、親権もとられ、それを苦にしてさらに酒に溺れた。
訓練に行けば酒で不始末を起こして処分をもらう。
それでも懲りずにまた酒を飲む、そういう男だった。
私も立場上、彼を厄介に思ったことはある。彼が問題を起こして皆が迷惑を蒙ることだって、当然にあるからです。
にもかかわらず、憎めないやつだった。酒が入らねば温厚で真面目な隊員でした。だからこそ、周りの隊員も見捨てやしないし、仲良くやっていた。
そんな彼が身を持ち崩したのは、やはり彼が愛した子どもたちに会えなくなった頃からです。
子どもを遠ざけられれば遠ざけられるほど、彼は酒に溺れた。
そういうことは知っていましたが、ちょうどその頃私は自衛隊を去りました。
その後のことは、知りません。聞くところによれば、酒への依存が深まり、鬱状態にもなっていたらしい。
そうして彼は、死の間際にも酒を求め、誰の目にも触れない場所から飛び降りたそうです。
私は彼の冥福を祈りますが、あれだけ諫められた酒でついに身を滅ぼし、娘たちから父親を永遠に奪ったこと、そのことは責めます。彼の子どもたちは彼のことを慕っていた。こんな結末ではあんまりかわいそうではないか。
部隊の仲間だってそうです。彼を救ってやれなかった、そういうものを背負わせてよいものか。
それでも、それでも私は言いたい、あいつは本当にいいやつだった。酒に溺れて、飲んで飲まれて、やっと酒を飲んだ気になる、そういう男は、そういう馬鹿な男は、今では本当に少なくなりました。
なんといおうと私は彼を愛します。酒はやめておけなんてくだらないことは言わない。
好きなだけ飲んでくれ。あの高笑いを聞かせてくれ。またあの馬鹿話を聞かせてくれ。もういちど、一緒に馬鹿を、やろうじゃないか。